西安人と城壁 ~ 黄 保中(中国)

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西安に来られたことがある方はきっと西安の城壁について深い印象があっただろうと思う。西安の城壁は明朝の初代の皇帝・明太祖朱元璋が、隋と唐の城壁を基に、建てたものである。 長方形の城壁は全長13.74キロ、高さ12m、上部の幅は12~14m位、中身は土、表面はレンガで覆われて、中国では西安のものほど完全な形で保存・修復されてきた城壁はない。西安市民はいま、城壁や城壁をぐるっと取り囲む環城公園と、切っても切れない生活をしている。

西安の朝は城壁からはじまるといっても過言ではない。5、6時から入場無料の環城公園に入ると、秦腔(陝西省の地方劇)、豫劇(河南省の地方劇)、京劇などを歌う人、社交ダンスに興じる人、鳥の鳴きくらべをする人、太極拳をする人、アスレチック器具でトレーニングする人などと出会える。テープレコーダーから流れる音楽に合わせて、思い思いに踊る2、30人の団体は、自然発生的に集まってきた人たちである。その中には、お年寄りや定年退職の方も多く、ここに来て、友達が増えただけでなく、帰り道で朝市に寄って、一日のおかずと子供たちの朝食などを買って帰る。城壁公園でのトレーニングがお年寄りの方々の一日のはじまりである。
緑豊かな公園は、市民にプライベートスペースを提供している。その中に学生の姿もよく見かける。大声をだして朗読する人、楽譜を立てかけ、バイオリンを弾き、トランペットを吹く学生がいる。近所迷惑になるアパートの一室では、自由に練習できず、ここでは絶好の練習場である。
昔、城外からの敵の侵攻を防ぐために築かれた城壁だが、いまは観光のポイントとして、毎日多くの人が訪れている。城壁の上には自転車のレンタルサービスがあって、これで城壁を一周すると、一時間少しかかる。汗を流す爽やかなサイクリングは、西安の町を眺めることができ、西安の旅のいい思い出になると思う。

shaanxi1.jpgしかし、城壁と市民は、ずっと快適に共存してきたわけではない。いまからわずか20年前には、長年の自然侵食と人為的破壊によって、無残な姿に成り果てていた。小さい時、私の家は城壁のすぐ中にあり、友達と放課後に遊ぶ場が城壁だった。記憶では当時の城壁は壊れているところが多く、横穴を掘って、中に住んでいる乞食たちもいた。1980年代初頭、「修復しなければ崩壊する」という状態に、取り壊すべきと守るべきとの意見の論争があったが、城壁は、市民にとって誇れるものなので、西安市は、歴史遺産を保護しながら発展する道を選んだ。
その後、予算不足のため、多くの市民が、週末の時間を割いて、城壁修復のプロジェクトに参加した。当時まだ学生の私も何回も城壁の修復作業に参加し、レンガを運んだ。無料奉仕したこの活動こそが、市民の城壁への愛着を深めた。近代化が進むに伴って西安も、歴史遺産保護と都市開発のはざ間で揺れながら、開発を進めてきた。鐘楼周辺には、高い建物の建設は禁止されているが、城壁より高い高層ビルが多く建てられ、これが古都の雰囲気を崩してしまうのではないかと心配する市民が多くいる。
夜になると城壁は、ライトアップされ、鐘桜や城壁から見える旧市街地の景色は「美しい」の一言に尽きる。城壁の下にある環城公園では、散歩する人や、デートする若いカップルで賑わい、西安の夜のロマンが城壁からひろがっていく。

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黄 保中(こう・ほちゅう)さん

中国陝西省

元香川県国際交流員(平成4、16、17年度)

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